愛は満ちる月のように
「四十年前に戻ってリセットするんだそうだ。沙紀は逃げてるけど、今度は父のほうが追いかけてるよ」

「お、お母様は? なんて?」

「父がどんな失敗をしても、見捨てないんだそうだ。……愛してるから」

「それは……ユウさんは、平気なの?」


母親のことを大切に思う悠にすれば、十年前と同じショックを受けたのではないか。

美月はそんな心配するが……。


「君の言葉を思い出していた。“私はあなたを信じてる”――これからの人生で僕を許して、認めてくれるのは、君しかいない。もう一度、君のヒーローになりたくて会いに来た。僕と結婚して欲しい……いや、正確じゃないな。どうかこのまま、妻でいて欲しい」


悠の告白に美月はビックリして振り向いた。


「今、なんて言ったの? 離婚届けは……」

「出してないんだ、悪い。出せなかった」

「そんな……」


美月にはあとの言葉が続かない。


「桐生の問題がだいぶ落ちついたとはいえ、日本に暮らし続けたら再燃しかねない。君はボストンに住み、年に数回日本に戻るほうがベストだと思う」

「だったら……余計に、あなたの妻には……」

「僕がボストンに住む。そのつもりで、一条を辞めてきた。もう一度ロースクールから入り直して、今度こそ弁護士になろうと思う。そのときは、ガールズ・シェルターで雇ってもらえるかな?」


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