愛は満ちる月のように
悠の返事に美月はクスクス笑い始めた。

ただそれだけのことなのに、彼女の笑顔を見ているだけで心が満たされていく。


「あの……ユウさん。赤ちゃんのことで……話しておきたいことがあるんだけど」

「何? 性別かな?」


美月の髪を撫でながらポニーテールをほどいた。

甘い薔薇の香りが鼻腔をくすぐる。それが香水ではなくシャンプーの香りだと気づき、悠は美月の髪に顔を埋めた。


「僕はどちらでもいいよ。なんだったら双子でもかまわない」

「残念ながらひとりなんだけど……。ねえ、ユウさん、ちゃんと聞いてる?」

「聞いてるよ。でも、日本にいたときは髪の香りが違う。君がこんなにセクシーなシャンプーを使ってたとは知らなかったな」

「……ユウさん、酔ってるみたいだわ」

「ああ、初めての恋に酔ってるんだ。シャンプーの香りにKOされる日がくるなんて、思ってもみなかった」


正直な感想だった。

意味もなく笑い出してしまいそうなほど、気分が高揚してどうしようもない。


(“愛してる”の言葉は媚薬だな……)


すると、美月も諦めたのか、悠にもたれかかったまま話し始めた。


「実は……精子バンクは利用してないのよ」


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