愛は満ちる月のように
美月はほんの少しの間、絶句して、


「……本気に聞こえるわ」

「本気だからね」

「ユウさんて……優等生に見えて、いざとなるとやることが突飛ね」


呆れているのか、あるいは感心しているのか、微妙な口調だ。


「子供が生まれたあとに、日本に戻ってもう一度結婚式を挙げよう。お互いの家族や友だちも呼んで……君のウエディングドレス姿をご両親に見てもらおう」

「……ユウさん」

「そうしたら、お義父さんに殴られずに済むかな」


悠の言葉に美月が笑った。

冗談ではなく、百パーセント本気だ。美月を守るため、邪な思いは一切ない。結婚するとき、そんな約束を交わしたことを思い出す。


ふたりの視線が絡み、数秒間みつめ合ったあと、ソッと唇を重ねた。



愛は欠けては満ちる月のように、たとえそのひと欠片すら見えなくなっても、いつも胸の中にあった。

五年後、十年後、二十年後、いつかまた見失う日が来るのかもしれない。

そのときは、今日の美月を思い出そう。愛する人を泣かせた胸の痛みと、幸せで満たしてくれた笑顔を。


六千マイル離れていても、ふたりが同じ月を見上げてきたように――。


この日、彼の腕の中で……愛は永遠に欠けることのない月になった。




                                ~fin~



< 355 / 356 >

この作品をシェア

pagetop