愛は満ちる月のように
「知ってるのよ! 結婚なんて嘘なんでしょう?」


千絵はそう叫んだ。


悠は、ボストンのハーバード・ビジネススクールに通っていたときに結婚したと公言していた。

だがこの二年間、悠の妻は一度も彼のもとを訪れていない。

支社長よりさらに上の統括本部長、しかも昨年秋には一条グループ本社の取締役にまで昇進した。そんな彼が既婚者と言いながら、どんな公式の場にも妻を同行しないのだ。

そんな社内の噂を聞き、千絵は東京での悠の様子も調べたという。

本社時代もやはり周囲に妻の影はなく。どこかのご令嬢らしいという話だけで、名前すら出てこなかった。


どう考えても、交際相手に結婚を迫られるのが嫌で既婚者だと偽っているように思えてならない。

それが千絵の結論だ。


「あなた一条グループの次期社長として入社したんでしょう? そんな男性が嘘の結婚指輪で女性を弄んでいいと思ってるの? あなたに騙されたって訴えることもできるのよ。父はそうするって言ってるわ。社長であるあなたの叔父様や弁護士のお父様も、さぞかしお困りになるんじゃないかしら」


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