愛は満ちる月のように
ボストンにも桜は咲く。

だが、日本で見る桜はどこか情緒豊かで、気がつけば、美月は通りすがりの人と顔を見合わせ「綺麗ですねぇ」と微笑みを交わしていた。
 

七年前の悠は本当に優しかった。その優しさに甘え、彼を縛ってしまったのも事実だ。

土手の桜を見ているとチャールズ川沿いの桜を思い出す。

日本がゴールデンウィークに入ったころ、ボストンの桜は濃いピンク色の花を咲かせる。チャールズ川沿いは桜並木というわけではないが、それでも悠に頼んで一緒に見に行った。



悠はボストンで唯一、心を許せる人だった。

他は誰も信用できない。フジワラの社員も、ボディガードも、最終的は金で美月を売り渡そうとしたのだから。

美月をホームステイさせてくれていたフジワラ・ニューヨーク本社の社員、フランク・グローヴァーには十八歳のひとり息子、サイラスがいた。気さくで礼儀正しく、結構なハンサムだ。マサチューセッツ工科大への入学も決まっており、優秀で美月には親切にしてくれた。

そして、少しずつだが心を開き始めたある日、美月は恐ろしい話を聞いてしまう。

フランクとサイラスは妻のメアリーも交えて深刻な顔で話していた。美月に日本人のボーイフレンドができたらしい、と。それは悠のことだろう。勘違いだ、と話の輪に加わろうとしたとき、フランクは息子に言った。


< 41 / 356 >

この作品をシェア

pagetop