愛は満ちる月のように
高校、大学とスキップし、二十二歳でロースクールを卒業した美月だ。討論でもそうそう言い負かされることはない。だが、この悠には逆らえなくなる。

心に刷り込まれた『悠は正しい』という思いが前提にあるせいだろう。


「それで、ユウさんは私に説教をするために追いかけて来られたの?」
 


河川敷には、夕日川を背にたくさんの屋台が出ていた。『桜フェスティバル』と書かれた大きな横断幕も掲げられている。土手沿いには桜並木が延々と続き、見渡す限りピンク色だ。

その下にはシートを敷き、先ほどの青年たちのようなグループが一杯いた。平日の昼間だというのに大勢の人間が缶ビールを手にはしゃいでいる。

ふたりは肩を並べて通路を歩く。

悠はダークネイビーのスーツを着ていた。イタリアンファブリック仕立てのエレガントなラインと、それを着こなしている悠の姿に、すれ違う女性のほとんどが振り返っていく。

美月は横目で見ながら、彼の五十センチほど後ろを歩いた。

ボストンでは隣に立ち、無邪気に彼の腕を掴んでいた。でも今は……それができないほど、美月が大人になったことに、悠は気づいているのだろうか?


「君の自覚のなさに驚いて追いかけてきたんだ。日本だと何が起こるかわからない。だから君も、成人してからも帰国しなかったんだ。地方都市だからと甘くみているのは危険だ」


悠は立ち止まり、真剣な表情で美月に言った。

決して馬鹿にしている訳でも、軽んじている訳でもない。正真正銘、美月の身を案じての言葉とわかる。十六歳のときのように悠の手を取り、彼の後ろに隠れたら、きっと守ってくれるだろう。

妹のように――。


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