愛は満ちる月のように
彼の立場を考え、一条の相続権は放棄させる。もし、悠に結婚したい相手ができたときは、子供の親権だけもらって別れるつもりだ。

そのときには、桐生の名の下にある様々な権利を、一条や藤原に分散させる方向で可能な限り譲渡しようと思っている。

そのまま桐生の親族に任せるより、よいほうに導いてくれると信じたい。


(でも……言えないわよね。いきなり、『子供が欲しいからあなたの精子を提供してくださる?』なんて……)


美月は緩く波打った髪を掻き上げた。

彼女はもともと天然パーマだ。短くするともっとクルクルになる。

肩くらいの長さにしていた幼稚園のころは、ふわふわの髪が肩の上一杯に広がっていた。生まれながらにブラウン系の髪の色をしていて、フランス人形のようだと言われた。

その髪にストレートパーマをあて、黒く染めたのは小学三年の終わり。父の転勤に合わせて九州から東京に戻ってきたときのこと。

美月は以前から、父にも母にも似ていない自分を不思議に思っていた。

そんなとき、父方の祖母から『実の孫ではない』と教えられた。


(あのときからよね……必死になってママに似せようとしたのは)


美月は自分と父の生活に割り込んでくる祖母が嫌いだった。思えば、随分生意気な口を利いていたと思う。祖母はそんな実の孫でもない美月が疎ましかったのだろう。

そのあとすぐ、父が再婚して……。


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