愛は満ちる月のように
美月は何もかも諦めたように笑う。


その悲し過ぎる笑顔を見たとき、悠は吸い寄せられるように口づけていた。

クリスマスやニューイヤーに軽くキスすることはあった。だが、親愛の情以外で美月に触れることなどありえない。

ましてや欲望の対象にするなど言語道断だ。

悠が離れようとしたとき――。


「……悠さん……」


切ない吐息と共に美月は悠の名を呼んだ。

悠は離しかけた手を彼女の腰に回し、腕の中に引き寄せる。


「わかった。君の願いを叶えてやる。だから……泣かないでくれ」


重なった美月の唇から熱が伝わる。

彼女の手も悠の背中をなぞるように動き……美月の仕草はふたりのキスをそれまで以上に深くした。


美月の願いを叶えてやろうと思った。

“悠と離婚して子供を産みたい”という願いを。

それは悠にとって予想以上に、胸の痛い決意であった。


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