愛は満ちる月のように
一方の悠はそれどころではない。

閉めたドアの外……壁に額を押し付けると数回、ガンガンと頭に衝撃を与える。それで可能かどうかはわからないが、今、見たことを忘れてしまいたかった。


美月は貧弱云々と言っていたが、そうでないことは昔から知っている。

小学生のころから中学生、下手すれば高校生並のスタイルをしていた。実際に高校生の年齢で出会ったときは、幾分、丸みを帯びて瑞々しく感じたのを覚えている。


だが今、目にした彼女は……。

欠点など見つけようがないほど、完璧に美しかった。

あの胸の谷間に顔を埋めたらどんな気持ちがするのだろう。そして、桜色の先端を口に含んで……。


(ダメだ。ダメだ、ダメだ! 余計なことを考えるな! 彼女の願いどおり、離婚すると決めたんだろう。そもそも、彼女を守るための結婚じゃないか!? コレじゃまるで那智さんの言うとおり……)


美月だけは駄目なのだ。絶対に手を出す訳にはいかない。だからこそ、この六年間、悠は一度も美月に会いに行かなかった。

六年前のあのときですら限界だった。

本当の自分は、美月の信頼に足る男ではない。


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