愛は満ちる月のように
第二次性徴期に入ったころから、悠は自分の感じ方に疑問を持っていた。

中学のころはそうでもなかったが、高校に上がってそれは顕著になる。友人たちが異性との交際やセックスの話に夢中になる中、悠はひとり冷めていた。興味がない訳でも、身体に支障がある訳でもない。ただ、どうしても同じテンションになれないだけだ。

彼と違って、弟の真は幼いころから感情表現が豊かで、幼なじみの“美月ちゃん”に夢中だった。


悠が初めて女性と付き合ったのは大学に入学してからのこと。

彼女は悠よりひとつ年上で、都内の女子大に通っていた。高校時代からの友人、小岩豊(こいわゆたか)から『彼女の友だちがお前と付き合いたいって』そう言って紹介されたのだ。

もう十一年も前になる。今となっては顔もよく思い出せない。名前も『マホさん』と呼んでいたことだけ覚えていた。


そして、悠が初めて女性を抱いたのも十九歳のとき――。

だがその相手は『マホさん』ではなかった。



カタン、と背後で音がした。


「あ……あの、ずっと占領していてごめんなさい。ユウさんも入っていらして」


美月は先ほど胸を見られたことなど、なんとも思っていない様子で話しかける。それが、悠には少し悔しかった。


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