愛は満ちる月のように
悠は慌てて自分の衝動にブレーキをかけた。

美月のバスローブを元に戻すと、彼女から離れる。


「ユ……ウさん?」

「信じられないが……聞いておきたい。君はバージンのままで精子バンクを使い、妊娠するつもりだったのか?」


図星だったのか美月の顔色は目に見えて変わった。羞恥と動揺が浮かんでいる。


「なんてことを……無茶もいいところだ! 君はまだ二十代前半だろう? 聖母マリアじゃあるまいし。おまけに、僕にはヨセフになれと?」

「結婚したとき、私は未経験だったわ。そして夫はあなただけよ。他の誰かと気楽に経験できたなら、精子バンクなんて考えないわっ!」

「だから、僕なら経験しても構わないと思ったわけだ」

「ええ、そうよ。あなたが“ソレ”を望むなら、私は……別にどんなやり方でも文句は言わないわ」


たしかに今、彼女に対してセックスを求めたのは悠だ。

美月がバージンであるなら、自分の仕草が誘惑になるとは考えてもいなかったのだろう。悠にすれば迷惑な話だが、彼女はどんな形であれ、結婚を神聖なものと捉えている証拠だ。


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