愛は満ちる月のように
(待つ男はいないのかもしれない。もし、決めた男がいるなら、その男のために自分を守ろうとしただろう……ならば)


悠は気持ちを切り替え、両手を上げた。


「わかった。すまない、悪かった。……僕らは七年も夫婦でいて、そのうち一年間は一緒に暮らした経験もあるが……どうやら、その経験は役に立たないようだ。お互いに、少し頭を冷やす必要があるな」

「それは……私が未経験だから?」

「そうだ」


美月がまだ自分を誰にも与えていないというなら、それを受け取るのに相応しい男でなければならない。自分が受け取るべきではない、というのが結婚したときに出した悠の結論だ。あのときは美月自身もそれを望んでいた。どんな男とも深い関わりを持ちたくない、と。

だが……悠に身体を投げ出すということは、その考えを変えたということだろうか?

もしそうなら、自分がそれに応えたとしても……。


(ダメだ。どうも自分にとって都合のいい方向に答えを導こうとしている)


悠はスーツの上着を手に取ると、美月に背中を向けた。


「待って、ユウさん! どこに行くの?」

「だから、頭を冷やしてくるよ。このままだと君を襲いそうだし、それは結果的に後悔することになりそうだ」


< 76 / 356 >

この作品をシェア

pagetop