愛は満ちる月のように
「ケンカはしてない。ただ、殴られただけ」


スーツの上着を放り投げ、悠は可笑しそうに話し始める。


「相手は女だから、大したことはないけどね。一発ヤりたくて、呼び出してホテルに行った。でも、どうしてもダメで……。謝ったんだけど、ぶつぶつ文句を言うもんだから」


相手の女から『せっかく出てきてあげたのに』と言われ、売り言葉に買い言葉で『しかたがないだろう? 君じゃ勃たないんだ』と言い返した。


直後、女から平手打ちを食らったという。


「指輪をはめた手で叩くのはやめて欲しいな。これじゃ、明日会社で夫婦ゲンカかと思われる」

「夫婦ゲンカより問題だろう? 一条、いい加減に逃げ回らず、ちゃんと向き合ったほうがいい」


那智の抱える問題と違って、悠には相手がいる。

悠が妻と紹介した美月は、彼にとってあきらかに特別な女性だ。


「向き合ってますよ。その結果、彼女は僕の部屋にいる。だから出てきたんだ……美月を抱く前に」

「……抱いたらまずいのか? 夫婦なんだろう?」

「彼女が大事にしているものを――奪うことになる」

「いいじゃないか。ムリヤリはまずいが、そうでないなら、いっそ奪ってみればいい」


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