愛は満ちる月のように
これで美月がボストンに戻り、悠が結婚指輪を外せば……。


(またどんな噂が飛び交うやら……)


悠が深くため息をついたとき、携帯が鳴った。



『私だ。二日酔いにはなってないかな?』

那智だった。

どうにも体裁が悪くて連絡を入れていなかったことを思い出す。


「なんとか……。昨夜は申し訳なかった。とにかく、礼も言いたいし、仕事が終わったらそっちに行くよ。その……色々、聞いて欲しいこともある。それで、悪いんだが、今夜も泊めてもらえるかな?」

情けないという自覚は充分にある。

それでも、今は美月に会いたくなかった。


『ああ、えっと、今夜はちょっと……』

「そうか……わかった。無理は言わない。どこかホテルにでも泊まるさ」

『いや、そうじゃなくて。一条、私が今、どこにいるかわかるか?』


そんなこと、わかるはずがないだろう。そもそも、那智の行動に興味などない。


< 89 / 356 >

この作品をシェア

pagetop