愛は満ちる月のように
「さあ……どうでしょうか? 喜んで他の女性を連れて戻られるかもしれませんね」


自動販売機で買ったコーヒーを美月は口に含む。

紙コップのタイプなので砂糖は抜きだ。薄く、ほろ苦いコーヒーに美月は少しだけ顔をしかめた。


「でも、電話をもらったときは驚いたな」

「すみません。私、知り合いなんて誰もいなくて……。那智さんはユウさんと仲がよさそうだったから。それに……」

「それに?」

「お食事もコーヒーもとても美味しかったから」


なんでもないことのように思えるが、とても大事なことだ。

那智は人気の店ということに驕ることなく、手を抜いている様子はなかった。従業員の数は少なくても、きちんと教育されていたように思う。

愛情を込められたものというのは食事に限らず、必ず相手に伝わる。

そしてそれは、どんなに素晴らしい肩書きより信頼に値するものだと美月は思っている。


「料理を食べて私を信頼してくれたわけだ。どうもありがとう」


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