愛は満ちる月のように
那智は悠より少し年上というが、そうは見えない。

細身なうえ、ハイヒールを履いた美月とほぼ同じ身長なので、威圧感がないせいかもしれない。昨日はコック帽に隠れて見えなかったが、比較的長めで柔らかそうなブラウンの髪も、那智を穏やかな気質に見せていた。


「でも、那智さんに聞いて少し安心しました。ユウさんは女性のところに行くっておっしゃってましたから」


――経験のない美月では楽しめない、だから、経験豊かな女性を抱きに行く。

あのときの悠の言葉は美月の耳にそんなふうに聞こえていた。


「感謝すべきなのはわかっているんです。たまたまボストンで私に出会って……仕方なく結婚してくれたんですから。でも……私はいつまでも保護者が必要な子供じゃないんです」

「私の目には、君は魅力的な女性にしか見えないんだけどね。どうやら一条は、妙な色眼鏡をつけてしまってるらしい。でもあの様子なら、じきに目が覚めるよ」


昨日、レジでもらったレシートに書かれた番号に電話して……『大変、不躾なお願いですが、決まった相手の方がいらっしゃらないのなら、私と“そういった関係”になっていただけませんか?』と頼んだ。

那智は驚きながらも事情を聞きにやって来てくれたのだった。


そして彼から、悠が昨夜泊まったのは那智の家だったと聞き、美月は夫婦の関係を彼に相談する。


< 93 / 356 >

この作品をシェア

pagetop