愛は満ちる月のように
悠は秘書に無理やり早退を告げ、オフィスを出た。

だが自宅には戻らず、直行したのは那智の店である。美月は『那智さんの家に泊めていただきます』と言っていた。それならマンションに向かって入れ違いになるより、待ち構えていようと考えた。


(まったく! 何を考えているんだ! 子供が欲しいだけじゃなかったのか!? こんな……馬鹿な男漁りのような真似をするなんて。大切に守ってきたんだと思っていたから……。那智さんも那智さんだ。真面目な顔をして、仮にも友人の妻となんてことを――)


自分の行為は棚上げにして、心の中でふたりを責める。

気分は完全に、妻に浮気されそうな夫、だった。


ほんの三十分ほどでビルの駐車場に見慣れた軽自動車が入ってきた。エンジンが止まるなり駆け寄り、助手席のドアを力任せに開ける。


「美月! 降りるんだ。君は自分、の……」


そこには誰もいない。すると運転席から、


「一条、いい加減降参しろ。自分の行動がおかしいと、自覚してくれ」


呆れたような那智の声が聞こえた。


「どういうことなんだ? 美月は」

「もし本当に一緒だったら、なんて言って連れて帰るつもりだったんだ?」

「それは……それは……」


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