愛は満ちる月のように
悠は部屋の奥に進み、無言でリビングに立つ。

だが、とくに変わったものは見当たらない。

和室は二面のふすまが開けっ放しでリビングとほぼ一体化しており、そこに人がいる様子もなかった。

キッチン横にある洗面を覗き、廊下に出てトイレもノックした。眠っているのか、と気を遣いながら寝室に入るが……ベッドを使った気配もない。

悠が美月の携帯を鳴らそうとしたとき、ふっと思い出して書斎に入る。


書斎にはデスクや本棚、オーディオ機器が置かれていた。仕事でしか使わない部屋だが、来客用に大きめソファベッドを用意してある。

昨日、美月には寝室で寝るように言った。自分は書斎で休むつもりだったのだが……。


「美月? いるのか?」


悠は小さな声で尋ねた。

まだ明るい時間帯だが、遮光カーテンのせいで部屋は薄暗い。室内を見回すと、ドアを開けて左手奥、窓際に置かれたソファベッドにこんもりと山ができている。


「美月……寝てるのか?」


ソファにかけられたカバーを被っているようだが、寝ているにしてはおかしな形だ。

悠の問いかけに、わずかにソファが軋み、その向こうにかけられたグレーの遮光カーテンも揺れた。


< 98 / 356 >

この作品をシェア

pagetop