ヲタク彼女
 次の日、俺は再び有名人となった。
「朱、彼氏とケンカしたんだって」
「えー。あたし別れたって聞いたけど」
 朝、学校に着いてから、何度このやりとりを聞いただろう。
「A組の奴だろ?」
「なんか、彼氏が朱に別れたいって言ったらしいよ」
 いや、言ってないから。
「最低だな」
 だから、違うっつの。
 噂とはなんと恐ろしいんだ。この広がり方。ひどい尾ひれの付き方。
 くそ、ある事ない事言いやがって。
「おはよう」
 俺は、誰にというわけではないが、半ばキレ気味に教室のドアを開けた。
 当然、クラスの奴らも白い目だ。
「おめでとう」
 きた。
「何がだよ」
「またまた〜。しらばっくれちゃって。別れたんだろ、朱と」
「別れてねーよ!」
「なんだ」
 俺はその言葉に、もう堪忍袋の緒が切れた。
「……誰のせいだと思ってんだーー!」
「えぇ!俺のせい!?」
「ああ、そうだ!昨日お前があんな事言うから、俺は気になって気になって。だから彼女に聞いたんだ」
「あれをそのままか」
「そうだ!あれをそのままだ!そしたら、怒られて、泣かれて。しまいにゃこのザマだよ!」
「……悪かったよ」
 何だか、その言葉を聞いたらいきなり冷静になった。
「……俺こそ熱くなりすぎた。ごめん」
「とにかくさ、朱と仲直りする方法、考えよう」
 そう言ってくれたのは牧だった。
「……牧」
 俺は思わず牧に抱きついた。
「お前は本当にいい奴だな。嫁になってくれ!」
「ハイハイ。冗談はいいから早く考えよう」
 本当に、いい奴だ。
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