隣に魔王さん。


いたたまれなくてふいと目を逸らす。


かたく、かたく、閉じた


―――あの、匣が開けられそうで


逃げてる。ずっと、逃げてる。


「なつか、」


ゃだ、今呼ばないで。
呼ばないで、全てが崩れてしまいそうなの……


「なつか、」


濯がれる視線にどうしようもないくらいの焦燥感が溢れて魔王さんの手から逃れようと身をよじる。
顎に添えられていた手は離れたけど代わりに腕を掴まれる。


「やだ!離してっ!」

「なつか!」


強く掴まれて離れない、とわかっていても必死に逃れようともがく。
いや、やめて、離して、


お願いだから―――、


「なつか!!俺を見ろっ!!」


掴まれた腕を引かれ魔王さんの腕の中におさまる。お互いの鼓動が肌で感じるくらい近いのに魔王さんの手が後頭部に添えられて逃げることを許してもらえず、先程よりも強く絡まる視線。





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