隣に魔王さん。


逸らしたくても逸らせない。
絡まる視線は身体の動きを封じて。


「なつか、」


愛しげに呼ばれた声に、恋慕なんてない。
自ら言いつけてぐるぐるに巻きつける、言葉の鎖。




重なる影、蘇る記憶、
魔王さんの中に灯る焔が誰かと重なってゆらゆらと揺れる。




――知りたくない、知りたい、その焔の名前を。



矛盾だらけの想いにぎゅっと瞳を瞑って見ないフリ。
やだ、このままでいたいの。このままで、
いずれ帰るんだから、帰らないといけないんだから、
切り離して痛い部分なんて創りたくない。
だって、だって、



―――帰れなくなるの、




これ以上、心地良い居場所にしたくないの。






失うことで得られる強さなんていらない。
別れることで手に入る癒しなんて欲しくない。
手放すことで元になんか戻りたくない。






はらはらと、溢れる涙。
頬を伝って床に水たまりをつくってく。



どうして、なんで、



―――気づいてしまったの、



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