隣に魔王さん。


泣いて、泣いて、泣いて、


走っても溢れ出てくる涙に心底うんざりして立ち止まって乱暴に擦る。
それはもう痛いくらいに。


「コウくんの、馬鹿………」


呟いた言葉さえも嗚咽に呑み込まれて消えていく。
まだ、寒い時期が続く中で冷たくなった手が悴んで動かなくなる。
桜はまだまだ咲かなくて、寒そうにそっと蕾が開き初めては閉じてを繰り返す。


「………俺は、馬鹿だよ。」


その聞き慣れたあの声とは少し違う低音が耳を擽る。
途端に後ろから抱きしめられて懐かしい、あの優しくて安心する香りと温もりが私を包む。


「…コウ、くん………」


首筋にかかるコウくんの息が荒い。
肩も上下していて走ってきてくれたことがわかる。


――ねぇ、コウくん。それって期待してもいいの?


私のために走ってきてくれたって。
信じても、いいの?


「なつか、」

「ん、」


耳元で名前を呼ばれてキュッと心臓が縮こまる。ドキドキして落ち着かないのにこの状況が凄く嬉しいの。


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