隣に魔王さん。
「ふふ、お堅いガードだ。」
するり、と横に流されていた髪に触れられた。
髪にキスでもしようとしたのか、生憎私の髪はそこまで長くない。セミロングですからっ!
一瞬、ホッとして気を抜いた瞬間に額に押し付けられた冷たいもの。
なにがなんだかわからなくて、理解するのに時間がかかった。
茫然、とする私を見て微笑み彼は魔王さんに挨拶して人の波に紛れていった。
それから、暫く私も魔王さんもみんな動かなくて。
ゆっくりと自らの額をなぞり、魔王さんの服の裾を引っ張る。
「もう、部屋に戻りたい。」
「………わかった。」
真っ直ぐに、誰を見るわけでもない私の視線は魔王さんすら写さない。
「スヒィー、付き添ってくれ。」
「仰せのままに」
行きましょう、とスヒィーさんの手が肩に触れ私を誘導する。
気にしないフリをしながら私を見ている視線が鬱陶しくて、何もかも嫌になった。
「だいきらい………」
ポツリ、と呟いた言葉さえ自らの耳にすら入らない。
自嘲気味な笑みを浮かべ、私は大広間を後にした―――