隣に魔王さん。


少し、前を歩く魔王さんの背中を見て駆け出す。


「なつか。」

「………」


裾を少し、引っ張って魔王さんをコチラに向かせて、


「……ぎゅっ、てして。」


お願い、と手をめいいっぱい伸ばして魔王さんに向ける。



今は、ダメなの。
笑えないの。泣きたいの。



でも、泣けないよ。



だから、泣かせて。
お願い、魔王さんの腕の中だけなの。


「っふ、今日はやけに甘えん坊だな。」


魔王さんは軽く笑って私を抱き寄せる。



優しく、壊れ物を扱うように。



温かさに安堵して溢れ出す涙。


「…っふぅ………っぅ……」


小さく漏れる嗚咽。



――怖かった。怖かったの。


自分が、無くなっちゃいそうで。


狂気、が私を支配してしまいそうで。


だから、触れなかったのに。



時間が解決してくれると思ったのに。



今日だけは、泣かせて。


明日から、無邪気に笑うから――。



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