メルラバ
「じゃ、気をつけて。何かあったら連絡下さい」

そう言って楡川さんがドアを閉める。

タクシーがゆっくりと動き出す。

窓の外では色とりどりのネオンが夜の東京を光らせている。空は真っ黒で星ひとつ見えない。

こんな時、私は東京が嫌いだなと思う。

私が住んでいた田舎では、夜になると町々の明かりは全て消え、代わりに空に星がたくさん瞬いていた。


なんにもないところだったけど、あの満天の星空だけは、このなんでもある東京に絶対にないものだ。

ネオンは星がないことに対する偽物の光りのようで、なんだか虚しくなる。
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