メルラバ
赤信号でタクシーが緩やかに減速し、そのわずかな振動で秋が目を開いた。

ぐったりと背もたれに預けていた背を少し起こし、現状を確かめるように二度三度瞬きを繰り返す。


秋の瞳は、まるで闇のようだといつも思う。

どこまでも黒く、その目に見つめられたら闇に呑み込まれてしまいそうな…。

「…ゆい?」

久しぶりに聞いた秋の声。
私の名を呼ぶその声は、飲み過ぎたせいか少しかすれていた。
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