メルラバ
この日のために私と秋は携帯のアドレスを交換した。

万が一お互いを見つけられなかった場合の非常手段。


携帯を開いて秋のアドレスを呼び出して…

悩む。


まだ時間はある。
秋は遅刻してるわけじゃない。

それなのに急かすようなメール送るのもどうかな。

もうちょっと待ってみよう。


もし遅れるのであれば秋からメールがはいるだろうし、遅れるってことを連絡しない秋じゃない。

ぱちんと携帯を閉じ、右手に握りしめる。

知らず緊張のせいで、手の平は汗で湿っていた。

さっきから胃はキリキリ痛むし、心臓は今にも口から飛び出しそうだ。

心臓が口から飛び出すなんて、ただの表現の一つだと思っていたけど、今は実際にそんな感じ。

何事も経験だなあ、なんて、そんなことを思う。
作家のくせに今さら。
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