ある夕方の拾いモノ -狐と私、時々愛-
「―――いや〜、楽しかったねぇ!」
お祭りからの帰り道、私は愁の少し前を歩きながらそう言った。
辺りはすっかり真っ暗で月明かりだけがぼんやりと道を照らす。
お酒を飲んだ訳じゃないけどどこかふわふわした足取りな私の隣にそっと立った愁は、私の腰に腕を回してぽつりとつぶやいた。
「…我は皆に言われたぞ、菜々美といつ婚儀をあげるのかと」
(婚儀、って…!)
聞き慣れない言葉の意味を反芻しながら、私は愁の次の言葉を待った。
「我は菜々美が欲しくてたまらぬ。………急かすつもりなどなかったが、もう限界よ。里の皆がぬしを待ち望んでいると思ったら、尚更抑えがきかぬ」