ある夕方の拾いモノ -狐と私、時々愛-





「だからって、菜々美ちゃんが風邪でも引いたら姉さんも安心できないわよ。…ほら、こんなに冷えて」


叔母さんは困ったように笑って私の手を引く。
これ以上困らせてもいけない、と思った私は後ろ髪を引かれながらも叔母さんの後について部屋の中に戻った。






―――私は、母と二人で暮らしていた。
父は私が生まれてすぐ事故で亡くなったらしい。写真でしか知らない父ではあったけど、母はいつも父の話を聞かせてくれていた。


そんな母も去年病に倒れ、入院を余儀なくされた。そうして数日前、眠るようにこの世を去っていった。


…ねぇ。お父さんと、もう出会えた?


棺に横たわる母の頬に触れ、その冷たさに深く息を吐いた私は心の中でそう語りかけた。





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