ある夕方の拾いモノ -狐と私、時々愛-





―――菜々美が倒れた次の瞬間、リビングには鮮血が飛び散った。
血を流して今にも消滅しようとしている妖弧の手の甲にはある印―――梗という妖弧に忠誠を誓った者のみが彫る印があった。



「…ひひっ。その女、死ぬぞ!解毒剤ごとき、あなた様ならば簡単に作れますなァ?」


「―――里に戻れば、ぞ。…梗の手先よ、やつの命ならばぬしの命すら惜しくはないと見える」


虫の息となりながらも狂ったように笑いながら愁を見つめるその男に、愁は一切の感情を見せなかった。


ただ、淡々と。



「ぬしはよほど才能がある。…我をここまで苛つかせる才能よ」


愁はそう言うと、菜々美を自分の肩に担ぎ上げたままその男に掌をかざす。
…次の瞬間、男は最初からいなかったように消え去ってしまった。





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