ある夕方の拾いモノ -狐と私、時々愛-





「愁様が里から姿を消したとき、私は血眼になって探しました。…あの日、あなた様の元にいるあの方を見たとき私は我が目を疑いましたが………今は思います。菜々美様に出会って、あの方は変わりました。感謝いたします」




燈はそう言うと、次の瞬間には私の目の前から姿を消していた。



「…気、回しすぎ」


私はそうつぶやきながら、気づかずに流していた涙を拭う。


愁の青紫の瞳を思い描いた。すると一瞬だけ触れた唇の、柔らかさとあたたかさが甦った。


たまらなく会いたかった。
会って、言いたい。



“好きだ”と。





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