ある夕方の拾いモノ -狐と私、時々愛-
「囚われの身にも関わらず肝の据わったお方なんですね。泣きわめきも、取り乱したりもしない。…つまらない人間だ」
梗は私のすぐ目の前にしゃがみ込むと、私の顎をつかむ。
どことなく愁の面影があるその顔の、瞳の色だけが違っていて、私の頭の中ががんがんと痛み出す。
逃げろ。
近づくな。
警鐘が鳴り響いてもこの状況じゃどうにもできなくて、私は得体の知れない恐怖心と戦うために必死で唇をかみしめていた。
「…そんなに唇を噛みしめたら傷が付く。あなたに傷を付けるのは役者が揃ってからですよ」
そう言うと、梗は私に顔を近づけた。
そのまま唇を舐めると、噛みつくようなキスをする。
逃げられない私は、彼のなすがままだった。