ある夕方の拾いモノ -狐と私、時々愛-
時が止まったような気がした。
でも私の身体から吹き出す血の勢いは止まってくれなくて、冷たくなっていく左肩にちらりと視線をやるとふぅと息を吐いた。
…愁は、無事だったのね?
視界の端で私に駆け寄る愁の姿はどこも傷ついている様子もなくて、私は安心して目を閉じた。
「―――み、…!」
愁が何か言ってるみたいなのにもう何も聞こえない。
大丈夫だって言いたいのに、もう口が動かせない。
(愁…)
愁の瞳が好きだった。
愁が、好きだった。
…伝えたいのに、伝わらない。
私が意識を手放した瞬間、指輪がパキリと音を立てて壊れる。血塗れの指輪だけど、私にはかけがえのないものだったのに。