ある夕方の拾いモノ -狐と私、時々愛-
…それから。
丸一日経っても目覚めない菜々美のもとを愁は決して訪れなかった。
菜々美の世話は燈に任せ、頭領の補佐として梗の件に裁定を下したり里にまつわる仕事をこなしたり。…そうやって寝る間も惜しんで働いて、それを口実に愁は菜々美に近づこうとしなかった。
それにいち早く気づくのは燈なのだが、自分の主にどう話を切り出したらいいか考えあぐねるうちに時間だけが過ぎていく。
「…困った主だ。ねぇ、菜々美様」
そうぼやきながら菜々美の額に浮かぶ汗を湿したタオルで拭うと、ぴくりと反応を示す。そして今まで閉じていた唇がうっすら開き、ぽつりと言葉を放った。
「………しゅ、…う」