ある夕方の拾いモノ -狐と私、時々愛-
「―――――愁様!」
燈は頭領の屋敷内で愁にあてがわれた執務室に駆け込んだ。
勢いよく開けた扉の先にはいすに座り書類を読んでいる愁の姿があり、燈はすぐそばまで寄っていく。
「なんぞ、騒々しい」
「………愁様、どうか菜々美様のそばにいてやってくださいませ!」
その瞬間、愁の表情が歪む。…自分以外のほかの誰かが彼女の名前を呼ぶことがこんなにしゃくに障るとは思ってもいなかったのだ。
しかし、そんな子供じみた考えも燈の言葉にあっという間にかき消される。
「菜々美様が譫言であなた様の名前を呼んでおられます!…どうか菜々美様のそばにおいでください」
「―――そうかそうか、そりゃあ大変だ」