キンモクセイ

行く宛が無かった。そしてお金も無かった。しかも真夏だというのに、短パンにTシャツでは肌寒い。オヤジが寝静まった頃に家に服を取りに帰ればいいと考えたが、とっさのことで鍵を持ってきていない。もちろん、玄関を開けたままにするハズもない。手塩にかけて男手一つで育ててきた我が息子に、死ねと言われたのだ。怒り狂って玄関に鍵をかけ、チェーンロックで俺を遮断しているに違いない。

持ってきたのは携帯電話と、さっき部活帰りにコーラを買おうとポケットにしまっていた120円と、オヤジに対する怒り。家出少年にはまるで役に立たないものばかり。
もし無人島に持っていくとしたら、何を持って行きますか?という何年か前にテレビで見た質問をふと思い出す。あの時俺はまだ幼くて、さっき倒れたであろう最優秀選手賞の盾を持っていこうと心に決めていた。
だが今考えると、それをどうするのだろう。砂浜に佇み、沈んでゆく美しい夕陽とキラキラ光る海をバックに、頬杖をついて足をルンルン交差させながら眺めるつもりだったのだろうか…我ながらアホすぎる。
と、思うと同時に、毎日ピカピカに磨いて大切にしていた盾が、今ではどうってことないものに変わってしまっていたことに寂しさも感じた。そういえば、玄関に飾った盾はもう輝きはなく、ホコリをかぶっている。そして、先ほど自ら倒した。

それにしても、携帯と120円で何ができるだろう…少し考えた末、コンビニに入った。
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