天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
沙知絵はいつのまにか、手術台のものから、目が離せなくなっていた。


中村は笑うと、手術台から離れ、背を向け、二十畳はある部屋の壁に向かって歩きだす。

沙知絵は目で、後を追った。

「進化を知っているね…」

中村の呟くような言葉を、聞き逃さずに、沙知絵は頷いた。

「は、はい…」

中村も頷き、

「それは…突然起こったものだろうか…遺伝子に従って……。微生物から、猿へ…人に辿り着く進化の過程。この地球にいる…虫を除く生き物は、進化の過程の中にいる…」

中村は、壁に前で止まり、

「人の…この姿が…進化の今のところの最終地点だ」

後ろについてきている沙知絵に、振り返り、

「今のところはね…」


沙知絵には、中村の言葉の意味がわからなかった。

「だが…これが、生物としての最終地点だと、思うかね?」

言葉を探す沙知絵に、軽く苦笑すると、中村はまた壁を見た。

「他の生物のように、固い皮膚もなく…鳥のように、空を飛ぶこともできず…海から生まれたはずが…水中で生きれない…なんて…」

中村は、壁を叩き、

「脆い生き物なんだ……これが、こんな人間が…最終地点のわけがない」

中村は全身を、沙知絵に向けた。

「進化は…終わったわけではないのだよ。猿が、人になるのに、一瞬だったと思うかい?少なくとも、数万年はかかったはずだ。まあ、地球から見たら…一瞬だろうが…」

「博士?」

沙知絵は、訝しげな顔を中村に向けた。

中村は気にせずに、言葉を続けた。

「人が…この世界に君臨した…いや、人が生まれた時から、次の進化は、始まっていたのだよ…」

中村は、にやりと笑い、

「君は、あれが…鬼に見えたと言ったね。ククク…」

手術台を指差した。

「鬼…悪魔……妖怪…あらゆる異形の者達。それは…化け物ではなく、人の先の生物だとしたら、どうする?」

沙知絵は、手術台を見た。

「人は…人が君臨する為に、進化を止めてきたのだよ」
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