天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
「……何て、残酷な…」

フラッシュがたかれ、現場検証を始めていた捜査官の間を通り、

まだ生々しい遺体が、横たわる2LDKの一室で、刑事は顔を、背けた。

部屋中に、血が飛び散っていた。

「物凄い力で…引き契られています」

先に現場を検証していた若い刑事が、報告した。

「引き契られている?」


「はい!こんなことが、できるのは………人間じゃないですね」

天井からも…血がしたたり落ちた。

「犯人は、わかってるんだろ」

血を避けながら、刑事はきいた。

「はい。血だらけになった…被害者の妻が、逃げるところを、近所の人が目撃しています。今、彼女の交友関係を当たっています」



「それにしても…」

刑事は、死体を見た。

「どうやって…熊や虎でもいたのか?」

顔をしかめた刑事のそばで、若い刑事は呟くように言った。

「……信じられない…」


「どうした?」

異様に青ざめている若い刑事に、気付き、

刑事は顔を見た。

若い刑事は、こたえない。震えている。

「青木警部!」

もう一人の刑事が、部屋に入ってきた。

「被害者が殺害される前に、被疑者と言い争っている声と…被害者の断末魔を、隣の住人が聞いています。どうやら…被害者は浮気をしていたようで…。それも、何度か…。昨日も、どうやら……他の女といたようです…」


「女?……その女は、どうした?」

遺体は、一人分しかない。

「血液は…二人分ありますよ…」

放心状態になっていた若い刑事が口を開いた。

「だけど……体は、一人分もない…」



「はあ?どういうことだ?」

青木は、若い刑事でなく、報告した刑事にきいた。

刑事は、首を横に振った。

「食べたんですよ…人間を…」

若い刑事はそう言うと、顔を引きつらせ、声をださずに笑った。


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