天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
倒れているゾンビ達を飛び越えようとしたが、あまりに数が多くて、できない。

少し戸惑った明菜と違い、神野と美奈子は、簡単にその上を、踏み付けていく。

「動きが鈍い!」

もともとここで、ゾンビになった者達は、実験や調べられた後が多い。

完全に目醒める前や、変幻が安定する前であったり、さらに、体を切り取られている。

つまり、つまり五体満足ではないのだ。

斬り付ける神野の斬撃に、簡単に倒れていく。

その姿は、明菜には耐えられないものがあった。

(彼らに罪はないのに…)



罪とは何か。

その根本的なことが、これから明菜を傷つけていくことになる。


「明菜!悩むな!今は、逃げることだけに集中しろ!」

1人遅れている明菜に、美奈子が叫んだ。

なんとか、ゾンビの群れを抜けた。

すると、神野は振り向いて、足を止めた。

美奈子が、横を通り過ぎる。遅れて、明菜がやってくる。

その後ろに、頭だけがなくなったゾンビが、追い掛けてくる。

明菜は走りながら、神野を見た。

「いけ…」

明菜を見ずに、ゾンビの群れを睨みながら、神野は次元刀を持つ手に、力を込めた。

すると、神野の意志に呼応してか…右手の筋肉が膨張し、巻いていた包帯を破った。

「なぜ…こうなり…なぜここにいるのかさえ…わからぬ者達よ…。せめて、あの世で、自分を取り戻せ」

神野は、1人ゾンビの群れに飛び込んでいく。

次元刀は、ゾンビだけでなく、そこにある空間さえ斬る。

斬られたゾンビの体は、空間の狭間に、吸い込まれていく。

一瞬見えて、くっ付く空間の隙間は、闇しかない。


一方的に、斬りまくる神野の戦いは……すぐに終わった。


傷一つ負わなかった神野は、次元刀についた血を払うと、明菜に近づいていく。

「この人達を、ほってはおけない」

震える明菜に、神野は顔を背けた。

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