天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
「あんたの言いたいことは、わかるが……この人達を助けることはできない。サナギを、幼虫に戻せないように…」

神野は、剣先を明菜に向けた。

次元刀は突き刺さることなく、明菜の中に入っていく。

半分くらい入った時、美奈子が叫んだ。

「後ろ!」

「え?」

明菜は…突然視界に、飛び込んできたものを確認できずに、動きが止まってしまう。

さずがに、神野は反応が速かった。

明菜という鞘に収めようとしていた次元刀を、居合い抜きのように、抜刀すると、手を切り返し、神野に伸びてきた腕を斬った。

「何!?」

だけど、斬った感覚があまりない。

肉ではないのだ。

腕を斬られ、後方にジャンプした者は、全身を布で包んでいたが、隙間から覗く目が、異様な光を讃えていた。

神野は、体を襲ってきた者に向けた。

斬られた腕が、神野の目の前に転がっていた。

「義手……」

クリーム色の合成樹脂でできた腕に、神野は見覚えがあった。

神野の右手が、脈打つ。

神野の前に立つ者は、全身を隠していた布を、脱ぎ去った。

三人の前に、露になった姿。その者は、人間の女だった。いや…人間ではない。

姿は、人間になっているが…中身は違う。


「それが…次元刀か…」

呟いた女の声は、野太く…男のように低い。

「フッ」

女は、笑うと、信じられない跳躍力で、後ろに下がった。

そして、神野を一瞥すると、建物跡から、近くの山へ走り去っていく。

「腕が…片方…なかった」

美奈子の呟きに、

神野は次元刀を、地面に落とした。

「沙知絵…」

「え」

神野の言葉に、二人は反応した。

その名は、神野の恋人の名前…。

神野の右手は、恋人のものだ。

「沙知絵!!!」

絶叫する神野に、

明菜と美奈子は、かける言葉がなかった。

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