天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
「あれが…神野さんの…」

明菜は、沙知絵が消え去った方を見つめた。

「今のは…見た目は、人間だったが…」

美奈子も、同じ方向を見た。

姿は人間だったが、跳躍力は人間を、軽く凌駕していた。

「く!」

沙知絵が去った方向へ、堪らずに走りだそうとした神野は、一歩で踏み止まった。

「人間ってやつは…そんなに強くない…」

神野は、次元刀を下げた。

「進化し…人間じゃなくなった者の中には、発狂したり…自我を失う者も多い…。そんな中で、今までの自分とは違う…新たな人格が形成される場合が…ある」

神野は、明菜の方に体を向けると、次元刀を戻した。

「神野さん…」

二人は向かい合うが、明菜にかける言葉がない。

「沙知絵の…沙知絵としての自我は、崩壊している。それは…最後に会った時に、沙知絵からきかされていた」 

神野は、転がっている義手を見つめた後、

明菜の横を、擦り抜けて行った。

「気にしなくてもいい…今度あいつに会ったら、斬る!」

斬ると力強く言い放った神野の気持ちを察して、明菜は口を紡いだ。

美奈子は、そんな神野をただ見つめる。

そして、大きく息を吐くと、

「性格や人格が、変わったとしても…相手のすべてが、変わったわけじゃない」

美奈子は、神野を凝視し、

「斬れる?」

「ああ」

神野は即答した。

沙知絵を斬る。それが、神野の目的であり、

それができるか、できないかで、美奈子達の在り方が変わった。

口では斬ると言っていたが、実物に会い、迷うならば…そんなやつと、ともにすることはできない。

神野はフッと笑うと、次元刀の柄を、美奈子に向け、

「その時は、俺を斬って下さい」

じっと美奈子の目を見つめる神野の瞳の強さに、

美奈子は、次元刀を受け取らず、神野の横を擦り抜ける。

「今は…信じてるから」

美奈子は、心配そうに二人を見ていた明菜の肩を、ぽんと叩いた。
< 133 / 227 >

この作品をシェア

pagetop