天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
「それに…急ぐことはない」

初めて来店したお客を、見送った後、マスターはフッと笑った。

「我々も…テラも…時間は、ある。目醒めた我々の生命力は、軽く人を凌駕している…。ゆっくりとやればいい…。ただ…」

マスターは、カウンターのカップを片付けながら、

「テラに…赤星浩一のことを、まだ知られてはいけない…」

ちらっと、テーブル席にいるカップルの女の方に、目をやった。

女は、立ち上がり、

「問題はありません。病院の件等は…異世界から来た…魔王側の尖兵だと伝えております」

その報告に、マスターは頷き、

「テラと、赤星浩一の関係を知る者は、少ない。知っていた…西園寺の妹も、始末できたしな」


マスターは、カウンターから窓の外を凝視した。

「人…」

呟くように、口を開き、

「ある者は…人が武器を進化させてきたのは、我々の存在を怖れてというが…私は、そうは思わない…」

マスターは、コーヒーを入れ、自分で飲んだ。

「それは…歴史が証明している。人が人同士で、殺し合うためだ…。まるで、滅びる為に、プログラムされているかの如く」

報告した女も、頷く。

「ねずみが大量に、海に飛び込み、死ぬように…人は、戦争を起こし…殺し合うことこそ、決められた運命…」


「しかし…人は、自滅の可能性を知ってから、大規模な戦争を起こしていません」

カップルの男の発言に、マスターは頷きながらも、

「規模は、小さくなったが…戦争をやめられない。攻められることを前提として、武力を強化していく。この弱き心こそが、滅亡へと…人を導く」

マスターは、コーヒーを飲み干すと、

「数において、我々は圧倒的に少ない。しかし、個においては、圧倒的に強い。進化により、我々は心の弱さを、克服できた」

カウンターに、カップを静かに置くと、

「進化による…強靭な体と、強さ心!それこそが、我々が最後には、残る理由!。目醒めたばかりのまだ…進化に気付かず…戸惑う仲間達を、導かなければならない!それが、我々の急務である!」

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