天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
「そ、そうなんだ…」

わざとらしく言ってみても、バレバレだった。

どうやら、粟飯原は、僕が奥野に屋上に連れていかれたのを、知っているようだ。

僕のリアクションには反応せず、粟飯原は言葉を続けた。

「別に嫌いじゃないんだけど……好きとかじゃないんだ。だから……断った」

「そ、そうなんだ」

それも知っていた。

粟飯原は横目で、ちらっと僕を見、

「こういうのって、断ったらいけないものなのか?」

「え?」

「友達や知り合いだったら…断ったらいけないのか」

粟飯原の口調が、強くなる。

「そ、そんなことは…」

予想外の反応に、戸惑い…口籠もる僕。

「気まずくなるんだったら、告白なんかするんじゃないよ!」

その言葉は、僕に向けられたものではなかった。

思わず見た粟飯原の視線は、僕の後ろを睨んでいた。

嫌な感じがして、僕は振り返った。

渡り廊下の入口に、奥野と………松田がいた。

奥野は、粟飯原を見つめながら、数秒立ちすくむと、

僕達に背をむけて、その場から走り去った。



「お、お、お前!」

逆に、松田は全速力で走ってくると、粟飯原に詰め寄った。

「粟飯原ああ!」

粟飯原の襟首を掴み、松田は粟飯原を持ち上げた。その顔に、怒りが満ちている。

「何だ?松田……お前には、関係ないだろ」

粟飯原は、両手をポケットに入れると、目だけは松田を睨んだ。

「お、お前は…奥野さんの気持ちがわからないのか!」

さらに腕に力を込める松田に、粟飯原は言った。

「わかってるさ…。だけど、わかってたら、こたえなくちゃならないのかよ?」

そのやけに冷静な粟飯原の口調に、松田はキレた。

「奥野さんは!お前みたいなのでも……好きなんだよ!」

片手を離し、殴ろうとした松田が、

逆に体をくの字にさせて、顔をしかめた。

「本音を言わない男に、殴られる気はない」

粟飯原は、崩れ落ちる松田を見下ろした。


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