天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
第11話 刹那
日本語は、不思議である。

表現できないものを表現する。

わびさび…外人には理解できない。日本人でも、詳しくは説明できないが、感じることはできる。

ゼロ…零ですら、存在しているように感じる。

刹那もまた…説明するなら、難しい言葉だろう。



一目惚れ…恋に落ちる瞬間を、時間で計ったら、どれくらいかかっているのだろうか。

人を、好き……嫌いと判断するスピードは一体、どれくらいなんだろうか? 


沙耶は、歩きながら、

そんなたわいもないことを考えていた。

首を捻り、いつもより遠回りして、帰っているのは……今は、冷静だからだ。

(もう一度、整理してみよう)

沙耶は、頭の中で、順序だて考え、思い出していく。

(あたしは……昨日初めて会った……。何回考えても、今までの人生の…記憶の中に、あの人はいない…)

沙耶は足を止め、

(つまり…あたしは、あの人の名前も、性格も、住所も…歳も、趣味も…性別も……ち、違う!性別は、男よ!男だわ!それは、わかってる!)

心の中で、1人焦る沙耶を、はたから見たら…動きがおかしいだろう。

(つ、つまり……)

沙耶の全身に、汗がにじむ。

「ひ、一目惚れ!」

思わず、口から言葉が出たことに気付き、沙耶は慌てて、口を塞ぎ、

辺りを伺った。

誰もきいていないのを確認し、

「あり得ないってえ」

真っ直ぐ歩きだしたつもりが、大きくカーブを描いている。

川添の道であり、少し道を離れてると、なだらかな斜面になっており、転ける可能性があった。

なんとか、ギリギリを保ちながら、沙耶は歩いていた。

普段なら、この道は通らないが、この季節だけ、

ちょうど夕焼けの時間に当たるので、川辺に反射するオレンジの世界を眺めに来たのだ。

昨日から……。


そんな時、夕焼けの中から、1人の男が歩いてきた。

川添の道を、二百メートル程歩くと、四車線はある大きな橋があった。

その橋の下辺りから、土手を上り、こちらに向かってくる男がいた。



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