天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
粟飯原の膝が、松田の鳩尾に決まっていた。

「くそが!」

松田は痛みをこらえながら、左手は粟飯原の襟首を離さなかった。

「何で…お前みたいなのを!」

松田は、起き上がる反動を利用して、頭突きを粟飯原の顎にくらわすと、

左手を離し、右手を握り締めると、全体重を乗せて、パンチをくらわす。

「奥野さんを泣かすやつは、許さない!」

粟飯原はそのパンチを、受けとめると、

「そんな資格があるのかよ」

今度は、蹴りを松田の膝にたたき込んだ。

松田は、倒れることなく、粟飯原に向かっていく。

「資格なんてない!だけど!」

「だけど、何だ!」

「奥野さんが好きなんだ!」

殴り蹴り合う二人を止めようとしたが、なせが止めれない僕の周りに、

いつのまにか、野次馬でいっぱいになる。

「何をしている!」

野次馬の向こうから、先生の声が聞こえた。

やばい…やめさせないと…と思った時、頭の中に、声が響いた。


(赤星…!)

僕ははっとして、我に返った。

さっきまで、微睡んだ雰囲気の中に浸かっていた僕の頭が、いきなり澄んだ。


粟飯原と松田の殴り合いは続いていたが、野次馬を押し退けて、前まで来た先生が、二人の前に、姿を見せた。

それとは逆に、僕は走った。

先生が掻き分けた人混みの隙間を、一瞬にして通り過ぎると、

僕は、全力で走った。

階段を飛び越え、ほんの数秒で、屋上のドアの前に立った。

一度、深呼吸をすると、おもむろにドアノブを掴み、

ゆっくりと開けた。

雲一つない青空が、頭上に広がり…一歩、屋上に足を踏み入れた僕に、電流が走った。

唐突だったため、少し驚いた僕は、床を見つめた。

水が溜まっていた。屋上一面に。

だけど、躊躇うことなく、僕はその水の上に、両足を乗せた。

電流が、全身を貫くが…僕は平然と歩きだした。


「さすがね…」

屋上の一番奥で、こちらに背を向けて、奥野が立っていた。


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