天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
窪んだ眼窩の空洞から、目玉はないが、

美奈子はなぜか、異様な視線を感じた。


人間離れした姿の化け物よりも、あるべきものがない…その方が、美奈子には恐ろしく感じた。

のっぺらぼうより、目だけない方が…リアルな恐怖感を感じさせた。

それは…もしかしたら、自分も、そんな風になるかもしれないと…いう危機感に近い。


「別に…あなたを、恐がらせようとしてる訳では、ないのですよ」

男は、ATMの受け取り口から、現金を取出し、美奈子に見せた。

「本当に、恐いのは…お金ですよ。人は、生活を便利にしょうと、お金を作ったのに……今は、この紙切れが、人の価値になっています」

男は、束になった紙幣を、美奈子にちらつかせた。

「これの重さで…人の価値が決まる」

じっと男は、美奈子を見つめる。

それは、目で…美奈子の言葉を促していた。

美奈子は、唾を飲み込み……引き出したお金を、財布にいれたことを確認すると、

男の眼窩を、真っ直ぐに見据えた。

「そんなことで、決まることはないわ」

力強い美奈子の言葉に、男は感嘆し、拍手した。

「さすが、素晴らしい!真の人が、お金如きで、買えるはずがありません!」

男は、笑い…そして、泣き出した。

「それなのに…普通の人間は…」

男が泣いていると、

ATMの扉が開いた。

その瞬間、男は帽子を取出し、目深に被った。


入ってきたのは、若い茶髪の男だった。

お金を引き出そうとする茶髪の男に、眼窩の男が振り向いた。

札束をいきなり、茶髪の男に突き付けた。

目の前に、大金が現れた茶髪の男は、身を捩らせて、驚いた。

「あなたの価値は、いくらですか?」

眼窩の男は、にこりと笑い掛け、

「あなたの価値だけ…。あなたに寄付しましょう?」

眼窩の男の言葉に、茶髪の男は目を丸くし、

「ほ、本当かよ……」

突然の言葉に、茶髪の男は、少し後退った。

「ここにあるのは…百万です。もっと、ほしければ…いかほどでも」

眼窩の男は、茶髪の男の手を取り、百万円を握らした。

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