天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
「人が買える訳がない!ただ…いきなり、大金を渡されて…」

美奈子の言葉に、眼窩の男は肩を揺らせて、笑った。

「怪しい…信用する前に、疑うべきだと?そんなうまい話などない…と、警戒するべきだと」

眼窩の男は、帽子を取り、

「そんなことが、できない者だから…金で、買えるのですよ」

目玉のない眼窩の奥に、蠢くものがあった。

それは、ゆっくりと飛び出してきた。

「二枚舌というのは…ご存知でしょうが…。私は、三枚舌でして」

2つの眼窩から、出てきたのは、二枚の舌だった。

「私の名は、田川寿郎」

二枚の舌が、蛇にように動きながら、田川は……

美奈子の前に跪き、大量の札束を差し出した。

「これは…寄付ではなく…お布施でございます」

血が溜まった床に、額をつけ、田川はこれ以上ないほど、頭を下げた。

その様子に、美奈子は後退った。

田川はゆっくりと、頭を上げ、美奈子を見据えると、

「我らが…女神よ」




「女神?」

田川の言葉に、思わず…美奈子は足を止めた。


「はい。あなたは、我々の…」

田川の言葉は、

突然、突き破られたガラスの音に、かき消された。

「化け物があ!」

強化ガラスを突き破って、田川に襲い掛かったのは、

神野だった。

次元刀が、田川の横腹に突き刺さった。


「部長!」

普通のドアを開けて、明菜が飛び込んできたが、

ATMに転がる惨劇に、思わず口を、手で被った。


「うおおおっ!」

神野の右腕が、赤く膨れ上がり、力を込めて、田川の横腹に深く、突き刺していく。

さらなる鮮血が、飛び散る。


「赤いんだ…」

化け物である田川から、流れる血の色に…美奈子は見惚れてしまった。

「不覚…」

田川の三枚の舌が動き、 

神野を、突き刺そうとする舌の動きよりも、次元刀の切れ味は凄まじく、まるで豆腐を切るように、

一瞬で、田川の体を真っ二つに切り裂いた。

魚を開きにするように。

頭の先から、飛び出した切っ先を反転させ、

一瞬にして、三枚の舌を切り取ったのだ。



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