天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
その電話の主にも、女は軽く鼻を鳴らした。

「折角の機会を無駄に…」

「あたしは、1人で会うと言ったはずだけど…」

少し怒気を含んだ女の声に、電話の主は震え上がる。

「も、も、申し訳ございません…。我ら…如何様な罰でも…」

「フン」

女は、また鼻で笑い、

「お前達を責めても、仕方あるまい………。それに」

そして、女は突然、足を止め、

にやりと口元を緩めた。

「何とか…目的は叶いそうだ」

そう言うと、女は携帯を切った。


人混みを抜け、少し離れたところで、様子を伺っている1人の女に気付いたからだ。

(あやつは…いないか) 

女は早足になり、パニック状態になった現場を覗いていた。


(すぐに…現場を離れないとは……甘いな)

女は、屈託のない笑顔を浮かべ、駆け寄る。

「お姉ちゃん!」

覗いていた女は、駆け寄ってくる女に気付いた。

「え?」


「お姉ちゃん!明菜お姉ちゃんでしょ!」

現場を確認していた明菜は、いきなり名を呼ばれ、

駆け寄ってくる女に、驚いたが……すぐに、相手を確認し、笑顔を返した。


「綾子ちゃん!?」

明菜は、思いがけない相手と会い、驚きよりも、懐かしさに、嬉しくなった。


手を振りながら、駆け寄ってくる女は、近所に住む幼なじみだった。

歳は、離れていたが…明菜と同じ年の兄貴がいた。

「久しぶりにですね」

少し息を切らし、明菜の前で止まった綾子に、明菜は自然に笑みを返した。


「そうね…5、6年ぶりかしら…」

近所であり、綾子の家とは、親しくしていたが、

あることがあってから、明菜は、綾子の家に顔を見せては、いなかった。


「そうですね…。兄がいなくなってから……お姉ちゃんとも、会う機会がなくなったものね」


綾子の言葉に、明菜は軽く顔を背けた。

明菜は、綾子や綾子の親に、顔を見せるのが、辛かった。

なぜなら、明菜は知っていたからだ。

明菜は、いなくなった綾子の兄の行方を知っていたからだ。


綾子の兄の名は、


赤星浩一。

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