天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
異世界にさらわれた明菜を助け…そして、異世界に残った男。


しかし、その真実を…浩一の家族に話しても、理解できるはずがなかった。


だから、明菜は…敢えて、綾子達には、話さなかった。


それから、実家を離れ、一人暮らしを始めてからは、会うこともなくなっていた。


(それなのに…こんな時に、こんな場所で会うなんて)

明菜は、偶然を恨んだが…それは、偶然ではなかった。

「こんなところで、何してるんですか?」

綾子から、質問され…明菜は慌て、少し思考回路が狂ってしまう。

「え!ああ…べ、別に」

久々に会い、普通に会話を交わしたら、いいだけなのに、明菜はしどろもどろになる。

「さ、さっき…事件があったみたいですね?」

明菜より、少し背の低い綾子の上目遣いに、明菜は視線を外した。

「そ、そうみたいね。な、なんか…凄い音がしたし…」

何とか…動揺を止めようと焦る明菜に気付かないように、綾子は冷ややかな視線を送った。

そして、綾子は一歩前に出て、明菜に笑顔を向けると、

「お姉ちゃんは…まだ演劇やってるんですか?」

「え?」

唐突な質問に、明菜は拍子抜けになった。 

「最近…少し興味があるんです」

屈託のない綾子の笑顔と、焦りから、明菜は普通に話してしまった。

「一応は…高校の先輩が立ち上げた劇団に、所属してるけど…」

その説明に、間一髪入れずに、綾子は言葉を続けた。

「今度、もし公演をされるんでしたら…」

綾子は、携帯を示し、

「連絡下さい」 

「…でも、公演とかは、まだ…」

口籠もる明菜に、強引に、綾子は押し切った。

「待ちますから」


渋々取り出した明菜の携帯と、赤外線通信で番号を、綾子はゲットした。


「演劇のこと以外でも…かけていいですか?」

綾子の質問に、明菜は頷いた。

「いつでも…大丈夫」


「……兄のことでも」

わざと言いにくそうに言った綾子の言葉に、明菜はびくっと体を反応させた。
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