天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
顔を強ばらせる明菜を見て、綾子は口調を、少し明るめに変えて、

「冗談ですよ。兄のことは…お姉ちゃんには、関係ないし…。それに…」

綾子は、わざと視線を落とすと、

すぐに顔を上げ、笑った。

「もう…諦めてます。兄は…いなかったと」


「あきちゃん…」

明菜は、言葉を失った。 

綾子は、明菜に頭を下げた。

「…劇団、頑張って下さい」

頭を上げ、笑顔を向けたまま、明菜に背を向けた。

「あ…」

かける言葉もないのに、明菜は、綾子を止めようとした。


綾子はゆっくりと、歩きだした。

明菜には見えなかったが、綾子の口元から、笑みが消えなかった。

(フン)

綾子は少し歩いた後、振り返り、携帯を示した。

「電話しますね」

ぺこっと頭を下げ、綾子はまた前を向くと、先程より歩く速度を上げた。




明菜が見えなくなる距離まで来ると、

綾子は、速度を緩め…念のため、振り返らなかったが、携帯を目の前に持ってきて、にやりと笑った。 

「これで…第一段階は、終わった」

綾子は、携帯をしまった。

「まったく…邪魔くさい!世界ってやつは…」

綾子は、空を見上げ、

「用心しなくても…あたしは、この世界から、逃げない」

空から視線を戻した綾子の瞳が、一瞬赤く光った。


瞳の色はすぐに、黒に戻ったが、

綾子の歩く方向には、あらゆる生物が、道を開け、

綾子から遠ざかっていく。

前から来たドーベルマンを連れていた婦人は、聞いたことのない悲鳴を上げ、全力で逃げていく飼犬に、

思い切り引きずられて、綾子から離れていく。

人以外は、わかっていたのだ。

彼女の正体に。

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